「親の会社継ぐっていいよね」に、なぜカチンとくるのか
「親の会社継ぐっていいよね」
悪気なく、そう言われる。
その瞬間、なぜか喉の奥がキュッとなる。
笑って受け流すのですが、家に帰ってから、何度もその言葉を反芻している自分がいる。
なんで、こんなにカチンとくるのか。
最初は、相手が悪いのだと思っていました。
何も知らずに気軽に言ってくる、その軽さに腹が立っているのだと。
けれど、何度も同じ言葉に同じ反応をしているうちに、ある日ふと気づくのです。
これは、相手のせいじゃないかもしれない、と。
カチンとくる本当の理由は、たぶん自分の中にある
「自分の力でゼロから築いた社長じゃない」
まだ言葉にしていないけれど、心のどこかでそう思っている。
相手の何気ない「いいな〜」が、その自己評価をピンポイントで突いてくる。
だから、胸の奥がカッとなるのだと思います。
私も、父が興した会社に入った頃、似たような感覚をよく味わいました。
新潟の田舎町です。
「お父さんの会社、継ぐの? いいねぇ、安泰で」と近所の人に言われる。
リーマンショックが直撃して、資金繰りに胃が痛い毎日でした。
その中で聞く「安泰」という言葉が、ナイフみたいに刺さるんです。
相手は、ただ祝福してくれているだけなのに。
家に帰って、ようやく分かりました。
私は、私自身に怒っていたのだと。
「ゼロから作った会社で勝負している人たち」と比べて、自分は何者でもない、という感覚。
その劣等感が、外からの何気ない言葉に増幅されて返ってきていたのです。
怒っている相手は、目の前の人ではないのかもしれません。
そう気づいたとき、私は少しだけ楽になりました。
気づいただけでは、まだ揺れなくならない
ただ、「自分に怒っていた」と分かっても、翌日から平気になるわけではありません。
私も、しばらくは同じ言葉に同じように反応していました。
では、何を手に入れれば、本当に揺れなくなるのか。
そもそも、勝負している土俵が違う
「ゼロから会社を立ち上げて社長になる」と「父から会社を引き継いで社長になる」は、土俵が違います。
ゼロから起業して上場までいく人がいます。
立派です。
けれどそれは、「ゼロから築く」というジャンルの仕事です。
継いだ人がやっているのは、「継ぐ」というジャンル。
祖父が興して、父が育てた会社を、自分が預かって、次の世代へ渡していく。
ここでの勝ち負けは、ゼロから上場した人と同じ物差しでは測れません。
先代が作った地盤を傷つけずに、育ててくれた社員に給料を払い続け、会社の名前を子どもの世代まで残す。
これは、起業家が目指す土俵とは、そもそも違うジャンルの仕事です。
新しく作る力と、すでにある関係を壊さずに更新していく力は、同じものではありません。
それなのに「自分でゼロから築いたか」だけを物差しにすると、継いだ人はずっと不利な比較を続けることになります。
反対に、「受け継いだのだから守るだけでいい」と考えると、今度は会社が時代に合わなくなっても変えられなくなります。
必要なのは、起業家と同じであることを証明することでも、先代と同じやり方を続けることでもないのだと思います。
継いだ人の成果は、四つに分けて見る
「自分が作った会社ではない」という事実は、変わりません。
けれど、「受け取った会社をどう扱ったか」は、自分の仕事として残ります。
先代から受け取ったものと、自分が加えたものを同じ箱に入れていると、どれだけ働いても「自分はまだ何もしていない」という感覚が消えません。
一度、分けて書いてみてください。
守ったもの:顧客との信頼、社員の雇用、技術、地域での役割
変えたもの:商品、仕事の進め方、判断の仕組み、役割分担
手放したもの:今の環境に合わなくなった慣習、社長だけが抱えていた仕事
渡せるようにしたもの:次の幹部や後継者が、自分で判断できる基準
すべてを大きく変える必要はありません。
変えないと決めたことにも、理由があれば、それは立派な判断です。
受け取ったものが多いことは、自分の価値が小さいことを意味しません。
何を受け取り、どの状態で次へ渡すか。それも、継いだ人の仕事だからです。
カチンときた瞬間は、合図として使える
「いいな〜」と言われてカチンとくる日が消えていくのは、たぶん、別ジャンルだと自分の中で腹落ちした日です。
物差しが変わるから、もう揺れない。
だから、カチンときた瞬間を、覚えておいてください。
あれは、いま自分が本当に欲しいものを教えてくれている合図です。
「自分でゼロから築いた」という承認なのか。
それとも、「ちゃんと引き継いだ」という納得なのか。
どちらが正しいということではありません。
ただ、後者を選んだ瞬間から、人は同じ言葉に揺れなくなるのだと、私は思っています。
なお、外から恵まれて見えるほど弱音を言いにくい、先代との関係まで絡んでいる、という感覚がある方は、人から羨まれる後継者ほど苦しい理由で別の角度から整理しています。
自分が何を背負っているかを、いったん分けて見る
会社を継ぐことを、自分の価値の証明にしなくても大丈夫です。
意思決定、社員との関係、自分の状態。
この三つを分けて見ると、何を引き継ぎ、何から自分の代へ変えるかを考えやすくなります。
ひとりで抱えている状態が、いま何点なのか
「後継者準備度診断」は、15問・約3分の無料チェックです。
意思決定・社員との関係・自分の状態を点数で見える化します。
診断結果に対する営業や勧誘は一切ありません。